※この記事はゲームプレイとは関係ないプロローグです
激しい雨が窓を叩いている。
小さな部屋に、しわがれた男のうわごとが響く。
かつてのオトラント公爵、フランス警察大臣、国民公会議員。
人呼んで冷血動物、サン・クルーの風見鶏、リヨンの霰弾乱殺者。
無数の権力を渡り歩き、激動の革命フランスを泳ぎ切ったジョゼフ・フーシェは、この異国の地でその生涯を終えようとしていた。
病魔にうなされる彼の脳裏に、これまでの波乱に満ちた生涯が走馬灯のように映し出される。
30歳で国民公会議員になり、派遣議員としてナントとリヨンで辣腕を振るい、ロベスピエールとの命を賭けた政争に勝ち、バラスの元で警察大臣となり、ナポレオンの統領政府でもその地位を務め、ナポレオンが皇帝となった後には帝国貴族たるオトラント公爵へ上り詰めた。
そしてナポレオンは敗れ百日天下の後、フランスの主となったのはフーシェだった。
最後はルイ18世、いやタレーランによって一敗地にまみれ国外追放の身となるが、幸運にも穏やかな死を迎えることができた今、フーシェは自分の人生がおおよそ満足できるものだったと評価している。
しがない教会の教師だった自分が、30年もの間フランスを、いやヨーロッパの命運を引っかき回したことが愉快でたまらなかった。フーシェは骨の髄まで陰謀が好きだったのだから。
しかし、そんな人生の中で、最後の失脚を除いてただ一つ後悔することがあった。
「ニエーヴル……」
彼は息を引き取る瞬間、26年前に亡くした愛娘の名前を呼んでいた。
酷暑の中、夏風邪をこじらせ亡くなってしまった幼い命。
彼の人生最大の心残りは、愛しい我が子の死に目に会えなかったことだった。
あの共和歴2年の
国民公会と公安委員会を牛耳るロベスピエールに名指しで糾弾され、憲兵に追われ毎夜を隠れ家や盟友の家の屋根裏部屋で過ごしていたフーシェは、熱にうなされる娘の手を取ってやることはおろか、そばにいてやることさえできなかったのである。
オトラント公爵となる叙任式のときも、ナポレオンへ退位を勧告した時も、臨時政府代表としてルイ18世を迎えた時も、どんな興奮と栄誉を持ってしてもこの後悔を拭い去ることはできなかった。
「こんな父親を許してほしい……」
そして、一人のただの善良な父親が61年の生涯を閉じた。
……
…………
………………
〜1444年・ナンテー〜
はっ、ここは!?
おお、起きたか。貴殿は城の庭に倒れておったのだ。身なりから察するに、どこかの国の貴族か公使か? 我がブルターニュ公国の者ではないようだが
ブルターニュ……? いや、そもそも私は死んだはずでは……? あ、服がオトラント公爵の大礼服になっている!
混乱しておるようだな。余はブルターニュ公フランソワ。ゆっくりでいいから話してみるがよい
…
………
……………
……というわけで、どうやら私は転生したようです
にわかに信じられぬが本当のようだな。それにしても300年後のヨーロッパがそんな風になっていたとは……あまりのことに私の理解が追い付かぬ。
そしてフーシェよ、我がブルターニュがフランス王に併呑されるというのは本当か?
はい。歴史の事実です
弱った……たしかにフランスからの圧力は強まる一方。百年戦争に決着をつけたら次はブルターニュを狙うに違いない。あのシャルルめ……!
陛下。私に陛下の手伝いをさせていただけませんか。私は政治家です。それにブルターニュは私の故郷*1。フランス王の好きにはさせません
それはありがたい! そうだ、手伝いと言わず、貴殿にこの国を任せようではないか。なんでも貴殿はフランス国王を処刑したとのこと。その手腕を活かし、逆にフランス王めに一泡吹かせてやってほしい!
わかりました。ぜひやらせてください。必ずやこの国の独立を守ってごらんにいれます!
……
…………
………………
こうして転生した私は君主の代理として、1444年の小国ブルターニュを指導することになった
19世紀のフランスに比べればなんて小さい国だろう。君主というよりは地方領主みたいなものだ。あちこちの県に派遣議員として赴任した時のことを思い出すなあ
あの娘が生まれたのはヌヴェールにいた時だった。県から名前をとってニエーヴルと名付けたんだ
…………(ジーン
……散歩でも行くか
……
…………
………………
のどかだなあ。思えばこんな風に警護もつけず、スパイにも追われずに歩くのは久しぶりだ。ここには私を知っている人は一人もいない
子供1「僕の方が遠くまで投げられるよ。それー!」ポイーッ
子供2「あ! 危ない!」
え?(ボギャ
子供1「うわ!! おじさん大丈夫!?」
びっくりした……ええ、大丈夫です。ほらこの通り(ピュー
子供2「大丈夫じゃないよ!! すごい血だよ!」
え?(ドバババババ
子供1「あれ、なんか収まってきてない?」
子供2「そんなこと……本当だ!」
??
子供1「すごい……もう血が止まった」
子供2「ていうかなんか傷が塞がってない? どうなってるのおじさんの体」
え、どうなってるんだろう。私にもわからない
子供1「とにかく、ごめんなさい!!!」
いいよいいよ。子供は元気に遊びなさい
ただし、これからは石投げ遊びは安全なところでやるんだよ。はいこれ石
子供1「ヒエ、血がすごい付いてるよお」
子供2「でも、おじさんに何事もなくてよかった~」
子供1「じゃあね、おじさん!」
子供2「バイバーイ!」
ふふ、子供はいつの時代も元気だなあ。……じゃなくて、どうなってるんだこれは……
……
…………
………………
どうやら私の体はすごいことになっているらしい
試しに傷つけてみたりしたが、どんな傷も立ちどころに治ってしまう。痛みはそれなりに感じるのであまり実験してないけど……多分ギロチンも効かない
こんな慣れない所でいろいろ食べてるけど病気一つしないし
これはもしかして不老不死というやつでは?
…………よし、このまま1821年まで生きてやるぞ。ニエーヴルにもう一度会うんだ。会って必ず看病する。ちゃんと薬も買ってやるし、いい医者にも見せてやる。あの時できなかったことを全部して、必ずあの娘を救うんだ
待ってろニエーヴル。父さんは未来を変えてみせるぞ!
次回↓